LOGIN宝石店を出てからミーナはカレンに案内されながら色んな店に寄り、手には買った服や旅に必要な生活必需品などが入った袋を持っている。
重くなった荷物を持っているミーナを見て微笑ましく思ったカレン。 笑いながらミーナに声をかけた。 「うふふ、いっぱい買い物できて良かったね。ミーナちゃん。」 「はい!本当にありがとうございます、カレンさん。」 「いいのよ。仕事の休みは私1人で買い物してるからあなたみたいな女の子と買い物できて楽しかったわ。」 「えへへっ。そういえばカレンさんは何の仕事してるんですか?」 「私?私は……」 「おーい、カレーン!」 カレンが答えようとした時、2人の後ろの方からカレンを呼ぶ声が聞こえてきた。 誰だろうと振り返ると手を振りながらやってくるのは男の人だった。 一瞬彼氏かなと思うミーナだが数秒後その人が誰なのか一瞬で分かった。 その人とは。 「え、エバルフさん!?」 この人はこの前までグレンを殺そうとしていた騎士団の1人のエバルフさんだった。 向こうもミーナとカレンが一緒にいる事に驚いていた。 「君は、紅の悪魔祓いと一緒にいたお嬢ちゃんじゃないか!?なぜカレンと?」 「あら、あなた達2人とも知り合いだったの?」 「ああ。この子はこの前団長に報告した悪魔祓いと一緒に旅してる子だ。…この子がいるって事はまさかこの国に紅の悪魔祓いがいるのか?」 ミーナを見てグレンの事を思い出したエバルフ。 焦っているのか額から汗が流れ落ちていた。 それに気づいたミーナはエバルフを気遣うように返した。 「大丈夫ですよ。この国に来てからグレンと私は別々に行動してるますから。」 「ホッ……そうかそうか。じゃああいつは今いないんだね?」 一瞬だけ安心したため息を吐くエバルフを見てカレンは笑いながら馬鹿にするように。 「あはははっ!何ビビってるのよ。ほんっとに情けないわねぇ。」 「うっ、うるさい!お前はあの化け物を見てないからそう言えるんだ!」 「あんたと一緒にしないで欲しいわね。どんな敵がいても私は負けずに挑むわ。あんたと違ってね!」 「何だとー!」 2人が言い争ってるとそこに割り込むようにミーナが口を出した。 「あのー。カレンさんの仕事ってもしかして…魔法騎士団の騎士ですか?」 「ええ、そうよ。ちなみに私は10騎士長でこの人(エバルフ)よりも上の位よ。」 指を差しながらエバルフを見下するカレン。本当の事を言われたエバルフは何も言い返すことが出来なかった。 「えぇー!エバルフさんよりも上の人なの!?…すごいですね。女性なのに戦う騎士ってカッコいいです!」 「確かに戦ってるよな。何度も何度も懲りずに合コンに参加しては男の取り合い合戦で敗ぼ…いだだだだ!!」 エバルフが余計なことを言ったためカレンはハイヒールの踵でグリグリとエバルフのつま先を強く踏んだ。 「あれは!…ただの…!遊びでしょ!私だって本気出せば……あっ、ごめんねミーナちゃん。こんなはしたない所見しちゃって。」 ミーナに喧嘩してるところを見られてる事にハッと気づき我にかえるカレン。 「あははっ、2人は仲が良いんですね。」 「「誰がこんな人(こんな奴)!!」」 ミーナ達3人が会った時と同じ時間に事件は起ころうとしていた。 彼女達は今この国の東地区にいるのだが事件のきっかけはこの国の西地区だった。 普段通りの街の風景の中に1人だけ不自然な行動をする男がいた。 その男の体はガクガク震えていて今にも倒れそうに歩いていた。 「あのー、大丈夫ですか?何だか具合悪そうですけど。」 「……」 通りすがりの親切な人が声をかけてもピクリとも反応しないその男。 すると急に震えるのをやめピタッとその場に立ち止まった。 「…せ…め…」 「え?」 そして数秒後、道路のど真ん中で親切な人の胴体に大きな穴が開いていた事を周りは気づく。 そして次々に発狂の声が聞こえ始め、人々は混乱状態になりながら逃げようとした。 「せ…めつ。…せんめつ………殲滅だ。」 そして男は胴体に刺した大きな爪を抜き取り付いた血を振り払った。 そう、こいつの正体は悪魔。 これがイフリーク史上最大の事件へと繋がるのだった。 突然、平和なイフリークに鳴るはずのない緊急のサイレンが鳴った。 イフリークの周りからは魔法で出来た防壁が展開され、街は避難体制に入ろうとしていた。 『国民の人たちは速やかに避難してください!そして、魔法騎士団は直ちに出動せよ!場所は西地区の商店街だ!』 このサイレンを聞いていたミーナ達。 「急にどうしたんだろう…さっきまであんなに平和だったのに!」 「確かに…!この国でサイレンが鳴る事はた滅多に無い…。カレン…いや、10騎士長!急いで西地区に行くぞ!」 「分かってるわ!…ミーナちゃんはここで待ってなさい!」 するとカレンは服のポケットからペンダントを取り出し開くと魔法で騎士団の鎧に一瞬で着替えた。 そして2人はエバルフの風で2人を包みこむと高速で移動し、ミーナは声をかける前に置いて行かれた。 「私…また何にも役に立たない…」 仕方が無いのでミーナは人が逃げていくところに紛れて走った。 すると前から来た1人の男にぶつかり後ろに倒れた。 「いたた、君大丈夫かい?」 ミーナの前にいた男の人は、二刀の長刀を腰にぶら下げ騎士団の鎧を纏っていたが黒髪で幼い顔だったのでとても騎士には見えなかった。 「ごめんなさい、僕怪我は無い!?」 完全に少年と思っているミーナ。男は少しムッとなったが急いでいたのでスルーした。 「僕?…まあいいや。とりあえず君はどこかに逃げるんだ…っとすまない。」 すると男は腕に付けてる通信機とやりとりし始めた。そして再びミーナを見ると。 「…今情報が入ったが西地区には悪魔が暴れてるそうだから早く避難しなさい。ここは騎士団に任せ…」 「悪魔…ですか?」 「え?」 するとミーナはその男の肩を握ると慌ただしく揺さぶりながら言った。 「早く行かないと!あそこには騎士団のエバルフさんとカレンさんがいるの!早く行かないと殺されてしまう!」 「…君は、2人を知ってるのか……分かった、君も一緒に来なさい。僕が連れてってやるよ。」 「え、ありがとうございます!僕は優しいね。」 「僕って言うなー!僕のことは(カイル)と呼んでくれ。」 カイルは僕と言われるのが嫌だったので本名を名乗ったがミーナは構わず。 「分かった。カイル君。」 「…もういいや、来なさい。早く12騎士長と10騎士長を助けに行くぞ!」 「はい!」 そして突然出会ったカイルとミーナは今現在悪魔がいると連絡があった西地区に向かい始めた。 この時ミーナは気づいていなかった。 今横にいるのはこの国で一番強く、そして騎士団の団長だという事を。 その頃、西地区では1人の男(悪魔)による大量殺戮が始まっていた。 悪魔に殺された人間は再び蘇るので新たな悪魔となって他の人間を殺し、悪魔は数を増やしていく。 「ひぃ……おかぁしゃん…僕だよ…僕の事忘れたの…?」 「グルルル…」 母親を殺された子供は悪魔として蘇った母親の姿に惑わされ、あっけなく殺されていく。 もちろん、人間としての感情は一切無い。 ただの食料として食い殺されるだけだった。 風の移動系魔法でやっと到着したエバルフとカレンは地獄と化した西地区の光景を目にした。 人の血によって赤く染まった町にいる人々と悪魔の姿はまるで地獄をイメージしたみたいだ。 「なんて光景だ…まるであの時を見てるみたいじゃねーか……。」 エバルフは目の前の状況と自分の住んでいた町が重なって見えた。 ーあの時の悪夢がまた襲ってくる。 「エバルフ!悪魔が襲ってくるわよ!」 カレンの声で我に返ると目の前から人間の姿をした悪魔が猛スピードで襲ってきた。 エバルフは間一髪でかわし、体制を整えると剣を抜いて構えた。 「すまん、カレン!」 「しっかりしなさい!油断して殺されたら許さないわよ!…っく!」 悪魔は鉄の棒を上から思いっきり振り下ろしたがカレンは剣で弾くと十分な距離を取った。 「なんて力なの?ちょっと弾いただけで手の痛みが…」 そして悪魔はもう一度カレンに接近し、鉄の棒を振り下ろした。 今度はカレンはそれを見切ったのか左にかわして悪魔の右腹を斬りつけた。 「ウガァァァ…ァァ…」 悪魔はもがき苦しみ、そのまま絶命した。 「さすがだな、10騎士長。」 「なめないで。…それよりも何よ、あの大群は…。」 カレンとエバルフの目の前には悪魔の集団がゾロゾロと歩いてきた。 その1番先頭には今回西地区で通りすがりの人を殺し、大量殺戮のきっかけを作った男性の悪魔だった。 「おい、10騎士長。あの先頭にいる奴、他の悪魔とは違う雰囲気だぞ。」 「そうね。いかにも強いぞってオーラが出てるわ。」 悪魔の集団を引き連れた男性の悪魔は10メートルくらい離れたところで立ち止まると後ろの悪魔の集団もそれに合わせて立ち止まった。 先頭の悪魔は服装だけ見たらどこにでも居そうな青年だが顔には黒いひび割れ線が所々に入っていた。 「これは参ったな…騎士長2人が組んでやがる。…うっとうしい、消えな。」 最後にそう付け加えると後ろにいた悪魔たちが一斉に襲いかかった。 とても2人では相手しきれない悪魔の数を剣で立ち向かうがやられるのは時間の問題だった。 あまりにも悪魔の数が多すぎたのでエバルフは魔法を使用した。 「消えろ!悪魔どもめ!」 エバルフは風を纏った剣を振ると突風の斬撃が悪魔達を次々に薙ぎ払った。 しかし、戦闘しながらの魔法は体への負担が大きいため持久戦には向いていない。 エバルフは魔法を使用したことでさっきよりも苦しそうな顔をしている。 「はぁ、はぁ、早くこいつらを殺さないと俺たちが危ない…」 すると突然エバルフの背中に激痛が走った。 「ぐっ…ヤバイ!…背中を斬られた……」 悪魔の爪がエバルフの背中を引っかき、背中からはおびただしい量の血が流れていた。 一方、カレンは少しだけ魔法で身体強化はしてるものの悪魔をスムーズに斬り倒していくがこちらも体力の限界が目に見えていた。 「なんでこんなにも多いのよ!これじゃ切りがないわ!」 「全くだ!…他の騎士長や騎士達はまだ来ないのかよ!」 エバルフは愚痴を吐きながら剣を構えている。 するとさっきから戦いに参加しないヒビ割れの悪魔が引き笑い気味で笑いながらとんでもない事を言った。 「他の騎士達なら多分来ないと思うよ。確かさっき南地区に現れた謎の悪魔をなんとかせねばとか言うてたかなー?」 南地区にも悪魔が?どうなってるんだ。 この事件はこのヒビ割れの悪魔が東地区で起こし人間を殺してるから悪魔が誕生しこの西地区で悪魔が出現するのは分かる それに悪魔が発生したこの西地区は事件が発生してから他の地区に侵入しないように閉鎖していて進入は不可能。 万が一を除いてもありえないが、その万が一があるとすれば。 「……まさか、お前以外にもう1人悪魔がいるのか?」 「アハハハ!その通りだ。俺がこの事件の元凶?馬鹿め!その時点でお前らは負け決定なんだよ!」 「そ…そんな…嘘だろ…」 今回の騎士団への命令はこの西地区にいる悪魔を駆除するのみ。 戦力はほとんど西地区にとられてるのに南地区にいきなり現れたら多くの人達の命を失うことになる。 そう考えるとエバルフは再び妹の事を考えてしまい、頭を抱えた。 「フハハハハッ!人間は馬鹿な生き物だ!わざわざ死にに来てくれるんだからな。さあ、お前ら今の内だ!その醜い人間を斬り殺せ!」 悪魔達はそう指示されるとエバルフに爪を向け、その多数の爪がエバルフめがけて伸びた。 カキィィン! もう少しで斬られそうになったエバルフの目の前でカレンは爪の攻撃をすべて剣で受け流した。 「何っ?」 カレンは攻撃の手を止めず、今度は両手に発生させた雷の魔力を3秒ほど溜めて悪魔達に目掛けて放った。 落雷の如く一直線に突き進み、悪魔達の3分の2程度が原型を留めることなく消滅していった。 「この女…なんて威力だ!」 ヒビ割れの悪魔はあまりの威力で砂ぼこりが舞い、思わず腕で顔を隠した。 「ウア"ッ!…あがっ…あぁ…ああぁ!…」 バタッ カレンはさっきの魔法が体にきたのか体を疼くませながら横向きに倒れた。 エバルフは慌ててカレンのそばにしゃがみ込んで体を揺さぶった。 「カレン!おい、大丈夫か!?…なんであの魔法を…あれは体への負担が大きすぎて使うなって団長に言われただろ!?」 するとカレンの口元からかすれるくらいの小さな声が聞こえた。 「…悔しい…」 「えっ?」 「悔しい…悔しいよ、エバルフ…。この国を愛する人たちがどうして人を殺しているの?しかもそれを守れない私たち騎士団はもっと悔しいよ!」 カレンの目からは涙が流れていた。 周りをよく見ると人々は悪魔に襲われ、逃げ惑っていた。 襲ってる悪魔のほとんどが元々この国の市民。 だったがこいつらのせいで殆どの人が悪魔化し、普段なら自分の子供、仲の良い友人、恋人だったはずの人たちを容赦なく殺していく。 こんな地獄、もう体験したくない! 変えなければ…これ以上、悲劇を生んではならない! 「10騎士長…いや、カレン。あとは俺に任せろ。こんな地獄、さっさと終わらせてやる。」 エバルフはカレンの体を持ち上げ、戦いに巻き込まれないよう隅っこに寝かせた。 「さあ、覚悟しろ害虫(悪魔)ども!今から纏めて駆除してやる!」 それを聞いたヒビ割れの悪魔は眉を吊り上げながら。 「ハァ?何言ってんだよ、お前。駆除されんのはお前ら人間の方だよ!」 それと同時に悪魔たちは一斉にエバルフを襲った。 ビュッ! 一瞬の風が悪魔の集団の間を吹き抜ける。 エバルフの周りから輝かしい風が竜巻の様に発生していた。 「吹き抜けろ、逆境をも覆す神の風ー」 そう唱えた直後、悪魔の体から徐々に斬り傷が入りそして一気に上半身が吹き飛んだ。 それは全ての悪魔だけに同じ反応が起こり、それ以外の人間は何ともなかった。 「なっ!?…ば、バカな!」 ヒビ割れの男はどういう訳かその攻撃をかわしていたので助かっていたがそれ以外の悪魔がやられたのを見て驚きを隠せなかった。 「次はお前の番だ。」 「くそ!人間如きが呪文を唱えやがって!」 「人間如き?…1つ教えてやろうか、悪魔野郎。」 「何だ!」 「俺はお前らと違って、大切な誰かを護る時にとてつもない力を発揮する。そして…この大切な国を潰そうとするお前は俺の敵だ!消えろ!!」 エバルフは風魔法で一気に詰め寄ると、剣を下から斜め上に斬りつけ、ヒビ割れの悪魔から大量の血が吹き出て、その場に倒れた。 エバルフは息を切らしながら隅っこに置いたカレンのそばに行った。 寝てるカレンにエバルフは笑顔でこう言った。 「はぁ、はぁ、カレン…護ってやったぞ…あとは、団長に任せよう。」 そしてエバルフもその場に倒れこんだ。「いつもありがとうね、リーナさん。」「いえいえ、私にはこれくらいの事しか出来ませんので。」カイルの家ではカイルの母親とミーナの母親であるリーナが、皆んなの食事を作って準備していた。クレーアタウンを悪魔に襲撃され、住む家が無くなったリーナは娘のミーナと一緒に居候させてもらっていた。(第34話参照)家族以外の人が増えるという事は家事をする者の負担が増えるという事だが、主婦としての家事スキルが高いリーナのお陰でカイルの母親は物凄く助かっていた。「リーナさんが居てくれるお陰で家事がだいぶ楽になったわ。」「それに、あなたが作る料理はどれも絶品で凄く美味しいからね。今日も頼りにしてるわよ!」「ありがとうございます、カルラさん。」カルラとはカイルの母親の名前である。2人はお互い歳が近い為、普段カイル達が居ない間に家事を早く済ませ、暇になってから色んな話に花を咲かせていた。確かにリーナの料理は作るもの全て絶品であったが、彼女は料理の腕をずっと磨き続けていた。その理由は、いつかアガレフが帰ってきた時に沢山料理を食べてもらう為であった。自分の料理が好きだと言ってくれた夫に、沢山自分の料理を食べてもらう為に。しかし、その願いは叶わなかったが今はその料理の腕が誰かの為に活かされており、それがリーナにとっても嬉しい事だった。そしてカイル達がノーム王のところから帰ってきた。「ただいま帰りました、母上!」カイルが帰ってきた為、玄関から自分が帰ってきたと伝える声が母達の居る部屋まで伝わってきた。廊下からバタバタと多くの足音が聞こえてくる。他にも一緒に暮らしているミーナとエミル、フィナ、ライク、ニケルも一緒に帰ってきたからだ。そして帰った6人は母たちの居る部屋にゾロゾロと入ってきた。「皆んなおかえりー!ご飯もう少しで出来るからね。」「ありがとうございます、カルラさん。私も手伝います。」「私もやります!」フィナが言うとエミルも便乗し、カルラ達の手伝いをしようとした。「ありがとうね。助かるわ、フィナさんにエミルちゃん。2人にはちょっとこのスープの味を見て良い感じに整えて欲しいの。」カルラは殆ど作っていたスープの最終調整をを2人に任せた。フィナとエミルは2人とも料理が得意である為、時間がある時などはカルラとリーナに手伝いを頼まれる事があった。しかし、
………ここは、どこだろう?気付いたらそこは真っ暗な空間にミーナはいた。「ここは…旅に出る前に見た夢の中みたい。夢の中のはずなのに夢じゃないみたいな…」そう。ここは初めてミーナが夢の中で優しい心を持つグレンと出会った場所であった。「ミーナ。」この声は?そう思ったミーナは声のする方を向いた。そこにはあの夢の中で初めて出会った黒髪のグレンが居た。「あなたは、あの時夢の中で会ったグレン?」そう質問すると、何故か黒髪のグレンは涙を流しながら言った。「…お願い…助けて欲しい。」そう言ってグレンは闇の中へと消えていく。「え、ちょっと待って!どこ行くの!…ねぇ!」ミーナは呼び止めたがグレンは何も言わずに消えていく。夢の中で走っていると何かにぶつかる様な衝撃が伝わった。「痛っ!」目の前で誰かにぶつかってしまったのか、ぶつけられた人は痛みを口にした。「…ハッ!…夢か……。」「…もぉ。夢か…じゃないわよ。何時だと思ってるの?」ミーナとぶつかったのは隣で寝ていたエミルであった。時刻は既に午前2時を過ぎており、起こされたエミルは滅茶苦茶不機嫌そうにミーナを睨みつけていた。「ご、ごめんねエミル。変な夢見てしまって…。」「もぉ……」そう言ってエミルは再び布団を被って眠りについた。「(今の夢、何だったんだろ?あの黒髪のグレンが現れたって事は、現実のグレンに何かあったんだろうか?)」「…ちょっと駄目だ…もう、眠い…。」少し考えたミーナであったが眠気には勝てなかった為、彼女もすぐに布団を被って眠りについた。ミーナ達はクレーアタウンでアスモディウスと戦ってから10日程の日が過ぎ去っていた。カイルはクレーアタウンで起きた悪魔との戦いで、カレンが悪魔サイドに居たことを西の大国イフリークの騎士団達に無線で伝えた。騎士団達の反応はそれぞれ違っていたが、全員悲しみに暮れていた。特にエバルフ。彼はカレンととても仲が良かった為、敵となったカレンを聞いて現実を受け止めきれずにいた。イフリークに残った12騎士長は5人4騎士長、ウェンディー・ソルディア5騎士長、シキ・ラインハルト6騎士長、エレンシー・ガーデン7騎士長、アレックス・マーベルそして12騎士長、エバルフ・シュロンこの5人はカイルから聞いたレミールに残った騎士長達の訃報を聞き、後日直接レミー
2人が見た通り、確かにヒスイはグロードを助けた。それは紛れもなくその場で起きた事実である。しかし、2人の記憶による事実と今こうして実際に起きたヒスイが刺された結果が矛盾している。何があったのか?それはベリエルの持つ虚無の魔眼の力が原因である。[あらゆる事象に対する再試行]これはその時に起こった場面を無かった事にし、再度その場面をやり直す事が出来る力。例えるなら、(殴られた→やり直し→殴られる前に戻る。)といった様に、実際起きた事を無かった事にし、起きる前に戻る事が出来る。言うなれば、時を巻き戻す力に近い力である。この力は虚無の魔眼を見せた相手にのみ発揮する。先程2人に虚無の魔眼を見せたのはこれを行う為であった。南の大国シルフで、カイルがハイド(ベリエル)に優勢だったがそれを一気に覆されたのも、この力が原因である。(第18話参照)そしてグロードが気がついた時にはヒスイは既にベリエルの黒い槍に突き刺されており、引き抜かれたと同時に後方へと倒れていく。「ヒスイ!!!!」ヒスイが倒れていく姿を見て叫ぶグロード。何故こうなったのか、考える余裕さえ無い。目の前で妻が刺された事に対する怒りがグロードの心を真っ赤に染め上げる。そしてグロードは空間移動でベリエルの元まで転移し、ベリエルの胸ぐらを掴む。「ぐっ!…」この時、何故かベリエルは虚無の魔眼を見せてこなかったが、この時はそんな事が気にならないくらい怒りの感情のみがグロードを突き動かしていた。怒りが爆発したグロードは胸ぐらを掴んで動けなくなったベリエルの顔面を拳で連打した。「うおおおおおお!!!!」ガスッ!ガスッ!ガスッ!ガスッ!……!何度殴っただろうか。何故か無抵抗のベリエルをグロードは怒りのままに殴り続けた。そして、右拳に魔力を込める。全属性を操れるグロードは、右拳に全属性の力を纏った。全属性とは、基本属性である8属性(火、水、風、雷、土、空間、光、闇)。これらを全て併用すると、相反する属性同士が互いを弾き合う。普通に使えば術者に影響が及ぶ危険な行為。しかしグロードは呪いにより死なない不死身の身体である為、その様なリスクが無い。無尽蔵に溢れ出る魔力を、右拳に纏った全属性の魔力へ更に加算する。魔力が増えれば弾き合う力も更に強化される。グロードはその強大すぎる力を全て、ベリ
ラウスが産まれてから5歳になった頃。未だグロードはベリエルを見つけられずにいた。その日は休日出勤で働きに出ていたヒスイの代わりに、グロードがラウスの世話をしていたのだった。「お父さん!」グロードの所まで走って近づくラウス。ラウスは髪色は母親譲りの綺麗な白銀であったが、顔はどちらかというと子供の頃のグロードに似て優しそうであった。「どうしたんだ、ラウス?」「この魔法書に書かれてるやつが分からないんだけど、教えて欲しい。」ラウスはどうやら魔法書を見ながら勉強しており、グロードは分からないところを教える為に一緒に見た。ーーこうしてると、ベリエルに勉強を教えてた頃を思い出す。一瞬ベリエルを思い出したが、すぐにその思い出を振り払った。「(いかん!ラウスはあいつとは違う!あいつはもう弟じゃ無い。憎むべき男なんだ。)」グロードは邪念を払う様にして、そう自分に言い聞かせた。「どうしたの?」「あっ…えっと、何でも無い!…ここが分からないんだな?」グロードはラウスが聞いてきた分からない部分を見て驚いた。「(…これは…高等魔法の専門書じゃ無いか。とても5歳が理解出来るレベルじゃ無いぞ。)」ラウスは魔法の理解力が異常に高く、それは紛れもなく10歳で実用性のある魔法を発明していったグロードの血筋であった。「ここはな、こうだから……。」噛み砕いて教えたつもりだがどうしても難しい専門用語を使う為、高校生でも理解が困難なレベルであった。しかし、ラウスは。「ありがとう!それだけ分からなかっただけだから!」 そう言ってラウスは専門書を持って部屋に戻って行った。ーーあの難解な本の一部分が分からなかっただけ?「…凄いな。流石は、俺の息子だな。」5歳にしては凄まじい魔法の才能を発揮するラウスに驚いていたが、自分の息子がこれ程の才能を持っている事に対して誇らしくなった。それから7歳になって少し身体が大きくなったラウスは体術の面でも凄まじい才能を発揮していた。「やああ!!」ラウスは殴る時に上記の様な子供っぽい掛け声を出すものの、それまでの動きが凄かった。グロードは手加減してるものの、まるで次に動き出す足の動きが見えているかの様にラウスは予測していた。その様子をヒスイはちゃんと見ていた。その夜、ラウスが寝静まった時にヒスイから話があった。「あの子、
月の遺跡から現れた古の化け物達が世界中を暴れ回った事により、多数の他国の人が亡くなったこの事件は世界中で瞬く間に広がった。現去流時(げざると)で生き返るのは、同じ種族の人間のみ。つまり、月の民が生き返った事により他国の人間は殺されて亡くなったままであった。これにより、今回の首謀者は今まで古の化け物達を野放しにし続けてきた月の民の責任だと言われ、これが更に月の民達への差別が助長される要因となった。この差別は風化される事が無く、時間と共に他国からの恨みばかりが募っていった。一方、古の化け物達を倒し世界の人々を救ったと持ち上げられたグロード。彼は世界の英雄として一躍有名人となった。沢山の人に賞賛され、感謝される日々。中にはグロードが古の化け物達を倒した事を記す為、絵物語を書きたいと懇願してきた絵師も居た。ーーもう、好きにしてくれ。投げやりに全てを受け入れるグロードは、ほとぼりが覚めるまで、人々の"英雄ごっこ"に付き合った。そして50年が経った頃には彼の事を知る者が死に去っていき、その頃にはもうグロードの事を英雄と呼ぶ者は居なくなっていた。50年も経てば時代の流れもそうだが、人々の価値観や文化も大きく変わっていく。しかし、変わらないものもあった。1つは月の民の差別。これはいつまで経っても、古の化け物達が世界中を暴れ回り、その生まれ変わりが現在の月の民だと後世に語り継がれていた。その為、実際古の化け物達が暴れた所を見た事がない後世の人々も、月の民が恐ろしい存在であるという価値観だけ植え付けられていた。そしてもう1つ変わらない事がある。これは50年経つ前から感じていた事だ。歳を取っていない。グロードは40歳の姿から変化が見られ無かったのだ。何故変化が無いのか?それはベリエルが掛けた呪いのせいであった。ベリエルはリオ王国の人達を超月食の日に自身の生命エネルギーに変換させ、それによってベリエルは不老不死となった。そんなベリエルに掛けられた呪いにはある条件があった。「この呪いは、術者が死ぬまで継続されるものである。」つまり、これはベリエルが死ぬまで呪いが解けないという事だ。不老不死になったベリエルは死なない為、呪いを掛けられたグロードとアガレフも必然的に不老不死となってしまった。これが、2人が400年間死ぬ事なく生き続けてきた理
それからもグロード、アガレフ、ベリエルは共にリオ王国で平和な日々を過ごしていった。グロードはあれから魔法の鍛錬を積んでいったが、時々月の遺跡へ出向いてアマルとサマスに修行を付けてもらう事が増えた。アガレフもグロードと一緒に月の遺跡へ出向き、修行を付けてもらっていたが彼には既に沢山の弟子が居た為、都合が合わない日が多かった。そしてベリエル。彼はこの頃になると部屋に閉じ篭もる事が増えた。理由は分からないが、何を聞いても調べ物をしてるだけだと言い、詳しい事はグロードとアガレフに教えようとしなかった。一度気になったグロードとアガレフはベリエルの部屋に行ってみた。扉の前でアガレフがグロードに言った。「ベリエルの奴、朝から部屋でずっと何かしてるみたいなんだが…どうも様子が変なんだ。」「ああ。確かに変だ。ベリエルがこの部屋に閉じ篭もってる間、一切の魔力を感じないからだ。」異変に気付いたのはグロードも同じであった。魔力を感じない。というよりも、まるでそこにベリエルが存在していない様に感じられた。気になったグロードはベリエルの部屋の扉をコンコンとノックした。数秒待っても反応は無く、静かなままであった。「…やはり様子が変だ。扉を開けるか?」「待て、アガレフ。流石に勝手に入るのは…。」すると目の前の扉がギィィッとゆっくり開く音が聞こえてくる。中からは相変わらずクマが酷いもののいつもの変わりない表情と姿、そして魔力のベリエルが出てきた。「…どうしたの、兄さん達?」何故か扉の前にグロードとアガレフが居た為、キョトンとした表情で2人を見ていたベリエル。「…いや、…何でもない。ずっと部屋に閉じ籠ってるから心配になってな。」「そ、そうだ。偶には、外に出て身体を動かしたらどうだ?」さっきまで魔力が感じられなかったベリエルはまるでそこに居ない様な気配であったが、突然その場に現れた様な気配に2人は驚く。しかし、一先ずベリエルに変わりがない事を確認して2人は安心した。「……んー、確かにそうだね。偶には身体を動かさないとね。…明日、久し振りに兄さん達に稽古を付けてもらおっかな!」グロードとアガレフにそう言われて頭を傾げ、少し考える様な間が気になるがすぐに笑顔になった。それを聞いたグロードとアガレフもベリエルに釣られて笑顔になった。「ああ。勿論だ。」「
アガレフは家の前で見送ってくれるリーナと、彼女に抱き抱えられているミーナの方を見た。 あの赤ん坊の頃に比べると少し大きくなったミーナ。金髪で青い瞳に綺麗な顔立ちが、どことなく母親であるリーナに似てきた気がした。 「じゃあ、行ってくる。」 「…うん。ずっと、待ってるからね。」 そう言ってアガレフとリーナは最後の口付けをした。 そして最後にミーナの方を見た。 「おとー。おとー。」 手を伸ばしながらお父さんと呼ぼうとしてるミーナ。その純粋無垢な瞳には、今日を最後に会えなくなるなんて微塵も思っていないのが分かる。 アガレフはミーナの額に手を当て、撫でながら言った。 「ミーナ。これか
「ハァ、ハァ!カイル君、どこ行ったんだろ?」王宮へ走りながらカイルを探していたフィナ。死力を尽くして国を守った人が突然姿を消し、その安否が気になり気付いたら王宮の方へ走っていた。王宮までの距離は長く、近づくにつれ擬似・ブラックホールによる被害が大きくなっている。その悲惨な光景を見る度に胸が締め付けられる。「(ここの花屋さん、いつも店の人がニコニコしながら花の事教えてくれてたな…部屋に赤い椿を飾ったな。…あっちのパン屋さんではよく巡回してた時、こっそり買って食べてたな。)」そう考えてると悲しくなり、更に目から涙が溢れていく。何で、こんな事になったんだろ…幸せだった筈なのに。そし
グレンがネルの作った巨大な悪魔の化身を黒炎で燃やし尽くしてからも死闘は繰り広げられた。「うおおおお!!!」悪魔の手(デビル・ザ・ハンド)の力で離れた位置から殴ろうとするグレン。「そう同じ手に何度も掛かるわけが無い!反(リバース)魔法!!」ネルは反魔法による反発の力を全身から発し、遠距離から放たれる黒炎の爆発を弾いた。「フフフ!もうその拳を対処する方法は見つけたよ。」「ならばこれならどうだ!」右腕に発動した悪魔の手の力でネルを捕まえたグレン。そして、思いっきり右腕を内側に振り切るとそれと同時にネルは腕の振る方向へと吹き飛ばされ、周囲の建物を貫通しながらぶつかっていく。悪魔の手
ドゴーン!!!突如、騎士団の本部から東に2km程離れた王宮の半分が突如半壊するのが見える。半壊した王宮の瓦礫は町中に雨の様に降り注ぎ、建物を次々に破壊していく。その光景をシルフの魔法騎士団達は見ていた。「バグーラ団長!…たった今、王宮の半分が何かの衝撃によって崩れた模様です!」「これは…ここまで力の差があったとは…フィナ様…。」祈る様に手を合わせる中、バグーラ団長に更なる報告が降り注ぐ。「バグーラ団長!更に王宮の方から何やら大勢の人影が見られます!」王宮の方を見ると横一列から大勢の人が並んでこちらに向かってくるのが見える。その人々の正体とは。「何だあの人達は!悪魔の襲撃か